アルゼンチン出身のパブロ・ソラルス監督、オリジナル脚本による長編映画第2作目。自身の祖父の家が「ポーランド」という言葉がタブーであったことから発想を得て作られた本作は、「ホロコースト」という避けては通れない歴史的事件をテーマにした感動のロード・ムービーである。主人公は、アルゼンチンに住む88歳の仕立て屋アブラハム。彼には死ぬまでにどうしても成し遂げなくてならないことがあった。それは70年間音信不通になっているポーランドに暮らす友人に、自分が仕立てたスーツを届けることだったのだ…。
家族の目を盗み、アルゼンチンからスペイン、フランスを経てポーランドへと向かう。彼は無事に辿り着き、友人と再会することが出来るのか?頑固で因業な爺さんが旅を通し知り合った人たちから支援を受け、苦虫を潰したような顔が次第に綻んでいくが、「ホロコースト」経験者の彼が「ドイツ」をモーレツに拒絶する下りは、戦後70年余りを経ても消し去ることのできない心の傷を象徴しているようで胸が痛む。アブラハム役のミゲル・アンヘラ・ソラの実年齢は68歳。特殊老けメイクにも劣らない深い演技にも暗い歴史の跡を感じた。
クライマックスに近づくにつれ友人との想い出話と「最後のスーツ」の意味が明らかにされていく。逢えるのか、逢えないのか。そのラストシーンに鳥肌が立ち、泣かされた。いい映画だ。
©2016 HERNÁNDEZ y FERNÁNDEZ Producciones cinematograficas S.L., TORNASOL FILMS, S.A RESCATE PRODUCCIONES A.I.E., ZAMPA AUDIOVISUAL, S.L., HADDOCK FILMS, PATAGONIK FILM GROUP S.A