82歳、巨匠ウディ・アレン監督の衰えを知らない最新作は、愛のもつれが生んだ嫉妬と裏切りの物語。アレン版「欲望という名の電車」と評判の、まさにテネシー・ウィリアムズの世界を彷彿する出来栄えになっている。映画界の至宝ヴィトリオ・ストラーロ、ノーマン・ロックウェルの絵画からインスパイアされたというモダンな映像は、リチャード・ロジャース、オスカー・ハマースタイン2世のミュージカル「回転木馬」を連想させ、その美しさに似合ったセンスの良い音楽も実に心地よい。だが物語は至ってシビア、凄みさえ感じた。
ビーチと遊園地。多くの観光客で賑わう1950年代のコニー・アイランド。元舞台女優で、今はウェイトレスをするジニー。回転木馬の操縦係をする現在の夫とは再婚同士で結ばれ、ジニーの連れ子と親子3人、観覧車の見える部屋で暮らしている。生活臭のする日々に刺激を求めるジニーは、脚本家志望の青年との秘密の恋に溺れている。しかし、ギャングと駆け落ちした夫の娘が突然帰ってきたことで、ジニーの心は乱れ始める…。主演女優ケイト・ウィンスレットのうだるような激情の演技から“愛が絡むと理性を失う”ことを教わった。
外の景色は綺麗に見える。飽くなき理想を求めるが故に嫉妬心が高揚し、すべてが空回り。“欲望という名の観覧車”に乗り続ける女性のムンムンと汗ばんだ執念の愛に虚無感だけが残った。
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