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アメリカの田舎町で信仰心の強い両親のもとに生まれ育ち、ある日同性愛者であることに気づいた青年。両親の勧めで同性愛を治す矯正セラピーに参加し、そこで体験した危険なセラピーの実態とそれに伴う心の傷に迫った衝撃実話。原作者ガラルド・コンリーが19歳の時に参加した矯正治療プログラムでの実体験を綴った回顧録をもとに、俳優で監督のジョエル・エドガードンが真摯に映画化。主人公と同じ悩みを抱える若者たちの救世主となり、周りの意識を変える意義ある作品を生み出した。
同性愛者をまるで犯罪者のように扱う施設の職員たちや、我が子の心の惑いや、自我の目覚めにも聞く耳をもたない両親。これが世界の中心、2000年代のアメリカで実際に起こっていたということに驚かされるし、歯の矯正や骨の矯正でもあるまいに、アィデンティティーという人間の尊厳を完全に無視した強制的なセラピーの実態も腹だたしい。大人の事情に振り回される青年の怒りと切ない感情に共鳴しない観客はまずいないだろう。「自分らしくありのままに生きる」ことの難しさを知らされる作品でもある。
ニコール・キッドマン、ラッセル・クロウの頼もしいベテラン勢。その中で「マンチェスター・バイ・ザ・シー」の若き実力者ルーカス・ヘッジズの繊細な名演がひと際目立っていた。
©2018 UNERASED FILM, INC.
ドラックに堕ちていく息子と、息子を信じる父親の8年間に渡る軌跡を、父親(デヴィド)と息子(ニック)の2つの視点から描いた2冊の回顧録を「ムーンライト」などで知られるブラッド・ピット率いるプランBエンターティメントが完全映画化。ドラックにはまる息子を「君の名前で僕を呼んで」の美形俳優ティモシー・シャラメが眩く危なげに演じているのも注目。時に厳しく息子の再起を見守る父親役のスティーヴ・カレルの無償の愛も印象的だ。
音楽ライターだった父親のデヴィッドが、ジョンが愛息に捧げた美しい曲「ビューティフル・ボーイ」からタイトルがつけられている。
©2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC.
柏葉幸子の「地下室からのふしぎな旅」を映像化したアニメーション映画。「クレヨンしんちゃん」の原恵一監督が、現代風にアレンジし、新しいファンタジーの世界を生み出した。なんでもCG化される現代のアニメだが、この作品はディズニーが忘れてしまった60年代のアニメを再現している。 誕生日の前日、少女アカネの前に、謎の大錬金術師ヒポクラテスとその弟子ピポが現れる。そして二人に自分たちの世界を救ってほしいと哀願され、連れていかれた骨董屋の地下室の扉を開けると、そこは不思議な動物や人が住むワンダーランドだった。そのカラフルな世界では、突然色が消えてしまう危機に陥っていたのだ。救世主となったアカネは助けられるのか?
ワンダーランドを救う大冒険だが、自分探しの旅でもある。自身の無い自分の殻を破るアカネの姿に共感だ。
©柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会
文化大革命、毛沢東の死、中越戦争という激動の時代の中国で、軍の歌劇団に所属していた若者たちの20年余りを追い続けた青春グラフティー。実際に軍歌劇団(文芸工作団」に所属し、「シュウシュウの季節」などで知られるゲリン・ヤンの原作を、中国の巨匠フォン・シャオガンが映画化。監督も同じくこの歌劇団に所属していた経験があり、自らの記憶を辿るかのように丁寧に大切に演出。政治的縛りや戦争を背景にしながらも、いつの時代もかわらない「青春」の甘酸っぱさ、輝きをスクリーン全面に映し出した。
物語は17歳の少女シャオピンが、ダンスの才能を認められ歌劇団に入団するところから始まる。体が臭いと仲間たちからイジメにあう彼女は、唯一優しく接してくれる模範兵のリウ・フォンに淡い恋ごころを抱くが…。映画はこの2人をはじめ、歌や踊りに情熱を注ぐ歌劇団メンバーそれぞれの恋模様が瑞々しく描かれるが、戦争という時代の変化に伴い、彼女たちの人生も岐路を迎える。とりわけ哀しきヒロイン、シャオピンが純粋に愛を貫く姿は実に感動的だ。また6分間に及ぶ戦争シーンは凄まじく目を覆った。
チャン・イーモウ監督初期作品のような良き中国映画の流れをもつ作品であり、娯楽性も兼ね備えた秀作。女優陣もみな華奢で美しく、しなやかな踊りのシーン、音楽にも陶酔した。
©2017 Zhejiang Dongyang Mayla Media Co., Ltd Huayi Brothers Pictures Limited IQiyi Motion Pictures(Beijing) Co., Ltd Beijing Sparkle Roll Media Corporation Beijing Jingxi Culture&Tourism Co., Ltd
40年前のハロウィンに起きた凄惨な殺人事件は犯人マイケル・マイヤーズを捕まえたことで終結していた。しかしマイケル・マイヤーズは事件後、ひと言も話さず、動機も不明、感情も見せないままだった。事件の真相を調べるジャーナリストのデイナとアーロンは、事件の唯一の生き残りローリーに話を聞いても収穫はなく、そしてハロウィン前夜、精神病棟からマイケル・マイヤーズを移送途中、事故に合いブギーマンが街に逃げてしまう・・・。
ジョン・カーペンター監督はブギーマンの存在について、「邪悪な力、恐怖の化身だ。彼は冷酷で、神への祈りは通用しない。彼の目的はシンプルだ。人を殺すことだけ。彼はただ、やって来る。そして人は逃げるしかない」と語っている。
©2018 UNIVERSAL STUDIOS
「U・ボート」「レッド・オクトーバーを追え!」など、大ヒットした “潜水艦モノ”が復活。元艦長ジョージ・ウォレスのベストセラー小説を「ワイルド・スピード」の製作陣が映画化した潜水艦アクション。 ロシア近海で米海軍原子力潜水艦が突然消息を絶つ。急遽捜索に向かった攻撃型原潜「ハンターキラー」は、現場付近で動かなくなったロシア原潜を発見し、艦長ら生存者を救出する。その頃、ロシア国内では大統領が拘束し核戦争を起こす一味の暗躍が明らかになる。ハンターキラーは戦争回避の為、大統領救出の過酷なミッションが下される・・・。
潜水艦の中は逃げ場のない密室だ。ソナー音と経験だけで見えない敵と攻防する極限の緊張感。飽きさせない演出。絶体絶命をロシア海軍での上下関係が全てを救う。
©2018 Hunter Killer Productions, Inc.
ミステリーの女王アガサ・クリスティ作品の映像化は多いが、自身が“最高傑作”と語った1949年に発表した「ねじれた家」の初映画化。無一文から巨万の富を築き上げた大富豪レオニデスが毒殺される。レオニデスの孫娘で元恋人のソフィアの依頼で捜査を始める私立探偵のチャールズ。富豪一族が勢ぞろいする中、巨額の遺産を巡る殺害動機ばかりで捜査は難航する。真相解明に近づくが、そこへ第二の殺人が起きる・・・。
ミステリーは最高と感じるのは裏切られたエンディングと思っていたが、この作品だけは当てはまらない。犯人の動機に現代に通じる虚しさ立ち込める。
© 2017 Crooked House Productions Ltd.
子供たちが暮らす不気味な古い屋敷に隠された謎を描いたサスペンススリラー。「怪物はささやく」のJ・A・バヨナ監督が製作総指揮をするだけに、通常の映画には仕上がらない。いくつもの伏線を張り、怪物でも出てくるんじゃないか?幽霊が出てくるのか?と、すべての要素で観客に仕掛ける恐怖は見事。 森の中にある大きな古い屋敷で、不思議な5つの掟を守るマローボン家の4人兄弟。家族の忌まわしい過去に縛られ、外の世界とは出来るだけ遮断し、この屋敷でひっそり暮らす兄弟たちは凶悪殺人鬼の父親を殺害し、死体を屋根裏部屋を隠している秘密があった。
しかし天井からは不気味な物音、鏡の中に映る怪しい影など不思議な現象が兄弟たちを恐怖に陥れる・・・。
©2017 MARROWBONE, SLU; TELECINCO CINEMA, SAU; RUIDOS EN EL ATICO, AIE. All rights reserved.
直木賞作家、角田光代の傑作小説を、「正解のない恋の形」を模索し続ける今泉力哉監督が映画化。平凡なOLテルコの「究極な片思い」を軸に、5人の男女の「もどかしい片思い」の姿を描く異色の恋愛映画。28歳のテルコ。逢った瞬間“マモル命”になった。たがマモルはテルコのことは好きじゃない。追いかれば追いかけるほどマモルの心は離れていく。愛に執着するテルコと、愛の重圧に疲れ微妙に距離を置くマモル。尽くす女と、都合のよい男の“愛のかけっこ”は、交わることなく永遠に続く…。
NHK連続テレビ小説「まんぷく」の注目女優岸井ゆきのが、一方通行の愛に猪突猛進するヒロインを熱演。その愛の猛威に正直ひくが、逆に成田陵の男気のなさが浮き彫りになった。
Ⓒ2019映画「愛がなんだ」製作委員会
エリート教師と、移民の生徒たちとの心温まる一年間の物語。学力の低下や貧困などによる教育の不平等など、今のフランスが抱える問題が盛沢山の教育映画ではあるが、パリのエリート高校から、郊外にある移民生徒が通う学校に突然赴任してきた教師が、真の教育に目覚めていく姿と、学ぶことの大切さが描かれる学園ドラマでもある。「学ぶ」ことに興味を示さない子供たちに興味を抱かせ、未来の「芽」を潰さない教育とは?「レ・ミゼラブル」の授業風景は大いに参考になった。
フォトジャーナリストの経歴をもつ監督のオリヴィエ・アヤシュ=ヴィダルは実際に2年間の学校生活を体験。子供たちの本音を脚本にしたため、真摯な目線で教育問題に取り組んだ。
©ATELIER DE PRODUCTION - SOMBRERO FILMS - FRANCE 3 CINEMA - 2017
「夏をゆく人々」で鮮烈な印象を与えたイタリアの女性監督アリーチェ・ロルヴァケル最新作。80年代初頭のイタリアで実際に起こった小作人制度廃止に伴う詐欺事件をベースに、キリストの奇跡により死後四日目に蘇生した聖人「ラザロ」を現代に蘇らせ描かれる小さな尊厳の物語。映画は現代のイタリアの小さな村で、小作人制度を隠蔽する侯爵夫人の下で閉塞され生活する村人と青年ラザロが、ある誘拐事件をきっかけに外の世界へ踏み入れていく話を寓話的に描く。
ここに登場するラザロは決して「神」ではないが、穢れた世の中で「無垢な心」を持ち続ける唯一無二の存在として貴重な光を放っていた。
©2018 tempesta srl ・ Amka Films Productions・ Ad Vitam Production ・ KNM ・ Pola Pandora RSI ・ Radiotelevisione svizzera・ Arte France Cinema ・ ZDF/ARTE
アウトバーン沿いにある旧東ドイツの巨大スーパーで働く人々の慎ましやかな物語。主人公は腕や首にタトゥーを入れた無口な青年クリスティアン。面倒見のよい上司ブルーノの下、在庫管理係の見習いとして働き始め、夫のいる年上の女性マリオンに恋心を抱くところから映画は始まる。ベルリンの壁崩壊後、統一されたドイツという時代背景が全体的に薄暗い印象を与えるが、登場する人間(喪失感が癒えぬ)に悪い人間がいないことに心が安らぐ。
薄暗い恋心。薄暗い日々の労働。行きかうフォークリフト。それでも地道にコツコツやっていれば、いつか灯が灯る日がやってくる。人生も悪くないと感じてもらえる作品だ。
©2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH
1920年代後半から50年代前半にかけ、映画や舞台で一世を風靡した伝説の人気コメディアン、ローレル&ハーディの愛と笑いの友情実話。コンビ結成から35年。既に過去の人となってしまった2人が、再起をかけた(最後の)イギリスツアーでの感動裏話が軽やかなステップと歌を交え描かれる。チャップリンやバスター・キートンと並ぶ人気と実力を兼ね備えた彼らの絶頂期ではなく、翳りを迎えた時期にスポットを当てた本作。最後の最後まで芸人道を貫き、コンビ愛を全うする姿に胸熱くなった
細身で皮肉屋スタンにスティ―ヴ・クーガン、陽気で太っちょオリバーにジョン・C・ライリー。隠れたコメディアンヌぶりに脱帽。ボードヴィルショーを見ているようで楽しかった。
©eOne Features (S&O) Limited, British Broadcasting Corporation 2018
Film Stars Don't Die in Liverpool
「悪人と美女」でアカデミー賞®助演女優賞に輝いた往年の大女優グロリア・グレアム。50年代のハリウッドで活躍し、私生活では4度の結婚歴がある自由奔放、恋多き女優。57年の短い生涯を遂じた彼女が、最後の最後に燃えるような恋をした男性は、息子ほどに年がはなれた、まだ駆け出しの舞台俳優だった…。映画は舞台公演中に突然倒れたグロリアと、その看病を買って出た元恋人のピーターとの“恋のはじまり”から“別れ”までが実話に基づき描かれる。
念願の役に挑む名女優アネット・ベニングの会心の演技。甘ったるい口調はそっくり。「リトル・ダンサー」のジェイミー・ベルも大女優を立派にエスコート。大人の俳優になった。
©2017 DANJAQ, LLC. All Rights Reserved.
ジョージ・W・ブッシュ政権時、裏でアメリカを操ったディック・チェイニー副大統領の人生を描く。イラク紛争を引き起こした張本人の人物だけに真相を知るには興味深い人物かもしれない。今回20代から70代までをクリスチャン・ベイルが演じている。メイクを屈しながらも体重を約20キロ増やし、見た目だけでなく、完璧な演技を見せた。悪評の下院議員ドナルド・ラムズフェルドの弟子となり、政界の裏表を学んでいく。頭角を現したチェイニーは、国の重責を歴任し、ジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領の座を手にする・・・。
「バイス」とはバイス・プレジントの意味以外に、“悪徳”や“邪悪”の意味も。アメリカ国民の間違いはトランプ大統領だけでなかった。
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