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1970年代のアメリカで、30人以上の若い女性ばかりを惨殺したとされる、アメリカ史上最も凶悪な連続殺人犯テッド・バンディ。IQ160の頭脳と美しい容姿で女性たちを虜にしたシリアルキラーの語源となった男。3度の死刑宣告を受けながらも、一貫として無実を主張。自ら弁護人となり法廷で徹底抗弁を繰り広げ、その裁判の模様はTVで生中継されるという前代未聞の騒動を起こした。本作は元恋人女性の書いた原作を基に、殺人鬼と過ごした愛の日々と、死刑執行までの道のりを彼女の目線から描いている。
映画は衝撃的犯行シーンは登場せず、裁判シーンを中心に展開。たった一人だけ殺されなかった元恋人リズだけが知る殺人鬼らしからぬ優しい素顔にも迫っていく。ミュージカル青春スターのザック・エフロンが、凄みと柔さ、二面性のある殺人鬼を怪演しイメージを脱却した。ヒロイン役リリー・コリンズの複雑な女心に共感。判事役ジョン・マルコヴィッチがデッドに下す名セリフも印象的。また「シックス・センス」の泣き顔名子役ハーレイ・ジョエル・オスメントが脇役俳優として大成したのも嬉しかった。
テッド・バンディを追及し続けるジョー・バーリンジャー監督。当時の映像を交えリアルさを引き出した演出に唸る。無罪か有罪か、ラストに明かされる真実に震えが止まらなかった。
©2018 Wicked Nevada, LLC
「長くつ下のピッピ」「ロッタちゃん」「やかまし村の子どもたち」シリーズのスウェーデンの人気児童作家アストリッド・リンドグレーンの劇的半生を描いた感動作。信仰心の厚い家庭で育った自由奔放な少女が、いかにして伝説の作家になったのか。何故いつまでも子供の心がわかる作家としていられたのか。それは彼女が思春期を迎えた16歳からおよそ10年間に隠されていると睨んだペアニレ・フィシャ―・クリステンセン監督が女性目線からその答えを導き出し、「女の一生」にも匹敵する渾身作を生み出した。
村の風習に息苦しさを感じていたリンドグレーン。ダンスパーティーでは誰にも声をかけられずにいた彼女の人生が一変したのは、地方新聞社で助手として働き始め、妻も子もある編集長と恋におちたことがきっかけだった…。たった16歳の少女が幾多の荒波を乗り越え、働く女性として、母として逞しく成長していく話だが、ピッピのようなおさげ髪の少女から、モードなショート・ボブの職業婦人へと変貌する主演女優アルバ・アウグストの魅力的な演技がなければ、これほどの共感は得られなかったに違いない。
僅か10年間で「女の人生」を経験してしまったリンドグレーン。理由あって距離が生じてしまった愛息子に愛していると伝えたい。その強い想いが彼女の世界観を確立させたのだ
©Nordisk Film Production AB / Avanti Film AB. All rights reserved.
毎回気になるテーマを探してくる周防監督が今回選んだのが活動弁士の話。映画が出来たばかりのサイレントの時代、映像に音をその場で演奏し映画を説明しまくる弁士。当時の弁士は憧れの職業で主人公俊太郎も子供の頃から真似をし、大人になってからも憧れは消えず、地方の劇場で有名弁士を語り詐欺の仲間として警察に追われることに。そして流れ着いたのが、小さな町の冴えない靑木館。隣町にできたライバル映画館にお客も人材も取られ、人材不足で弁士として入ったつもりが、毎日雑用ばかり。俊太郎はどんどんと騒動に巻き込まれていくのだった・・・。
主役以外の脇役はすべて周防組の俳優ばかりで、安定したお笑いを提供するがインパクトを残したのは新参者の音尾琢真だった。正月映画に相応しいコメディ映画である。
©2019「カツベン!」製作委員会
「男はつらいよ」第一作の公開から50年、記念すべき50作目となる最新作は、葛飾柴又の団子屋「くるまや」を営んでいた寅さん家族の“その後”の物語。小説家となり、妻に先立たれ中学生の娘と暮らす満男(吉岡秀隆)が、青春時代の恋人イズミ(後藤久美子)との再会に胸焦がす物語と共に寅さんとの懐かしい想い出が綴られる。今回4Kデジタル修復された寅さんシリーズの映像と現在の映像が融合された新世代に相応しい作品が完成。
さくらも、おいちゃんも、おばちゃんもタコ社長もみーんな若い!歴代マドンナとの懐かしいシーンも登場。渥美清さんの人情熱い演技は絶品で、色褪せない寅さんの魅力が楽しめた。
Ⓒ2019松竹株式会社
How to Train Your Dragon: The Hidden World
世界の子供に大人気の児童文学「ヒックとドラゴン」原作の映画シリーズ第三弾。これまでドラゴンとバイキングの少年の友情と成長を描いた冒険もこれで最後。 共存の道を見つけた人間とドラゴンらはバーク島で平和に暮らしていたのだが、急激な人口&ドラゴン増加に手狭になりヒックとトゥースは引っ越しを決意。新天地を求めて旅が始まる。大波乱の冒険の末、2人はドラゴンたちだけの隠された王国に辿り着くのだが・・・。
今回の注目のキャラクターは最強のドラゴンハンター、グリメルの存在だ。ドリームワークスの渾身の大傑作に脱帽です。
© 2019 DreamWorks Animation LLC. All Rights Reserved.
数々のアカデミー賞受賞歴を誇るアードマン・アニメーションズの「ウォレスとグルミット」シリーズに登場するキャラクター、ひつじのショーンを主人公にした「ひつじのショーン」長編劇場版第2弾。クレーンアニメーションは日本ではあまりお目にかからないが気の遠くなる作業を繰り返して出来上がる。スタッフの努力と愛情は映像からも伝わってくる。
宇宙から牧場に迷い込んだルーラと仲良くなったことでショーンは故郷を恋しがるルーラを帰す計画を立てるのだが・・・。ドタバタ劇は変わらないが心がジーンと熱くなる、子供と観るこの冬お薦めの映画です。
© 2019 Aardman Animations Ltd and Studiocanal SAS. All Rights Reserved.
ベストセラー歴史小説を映画化。第一次世界大戦後のフランスの片田舎を舞台に描く、一匹の犬が繋ぐ二人の男と一人の女の愛と信頼の物語は、まるでフランス版「忠犬ハチ公」のようだ。実直な農夫から戦争の英雄となり、不祥事を起こし収監された男ジャックの判決を下すため訪れた判事ランティエ。留置所の外で吠え続ける一匹の黒い犬に関心を寄せたことから、ジャックの恋人の存在が浮かび上がるが…。
何故ジャックは恋人を拒絶するのか。犬は何故吠え続けるのか。全ての謎は彼の心に根付いた戦争の暗い影が原因だが、忠犬が頑な心を溶かす役目を担い温かな結末へと誘うのだ。
©ICE3 - KJB PRODUCTION - APOLLO FILMS - FRANCE 3 CINEMA - UMEDIA
L’Incroyable historire du Facteur Chevel
19世紀末のフランス南東部の村に建てられ、後に仏政府重要建造物に指定されたシュヴァルの理想宮。奇形な石を積み造られたこの建物を33年の月日をかけ、たった一人で完成させたのは、著名な建築家でも芸術家でもなく、一介の郵便配達員だった。本作は奇想の宮殿誕生秘話と共に、途方もない夢に挑戦した男と、不運な人生を歩んだ彼の家族との33年間に渡る愛の歴史である。
世界中の観光客が押し寄せるシュヴァルの理想宮。スクリーンを通し実物を見れただけでもお得感を味わえる。郵便配達員&石職人のジャック・ガンブランの寡黙な演技に陶酔した。
©2017 Fechner Films - Fechner BE - SND - Groupe M6 - FINACCURATE - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema
フランス映画「最強のふたり」のハリウッド・リメイク版。スラム街出身の無職の黒人男性と、車椅子生活の富豪の白人男性の友情を描く実話に基づく感動作。生活環境も価値観も真逆な二人が、主人と介護人としての関係を続けていくことで、いつしか本物の友情が芽生え、刺激し合うことで人生をアップサイド(上昇)させていくまでが描かれるが、本作ではオリジナル版にはなかったハリウッドらしい華やかさとパワーが備わった。
ケヴィン・ハート、ブライアン・クランストン、ニコール・キッドマンという最強キャストの競演も楽しみだが、変わらぬ美しさを保つニコール・キッドマンに見とれてしまった。
©2019 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.
フランスの巨匠フィリップ・ガレルの息子で俳優のルイ・ガレル主演・監督作品。人恋しい冬のパリを舞台に、優柔不断な男と移り気な二人の女の絡み合う恋模様をさらっと描くフランス流ラブ・ストーリー。主要人物は、同棲中の恋人に突然妊娠と別れを告げられたアベル。アベルの子ではなく、別の男性ポールの子を宿したマリアンヌ。アベルを子供の頃から恋い焦がれていたポールの妹エヴ。数年後再会した3人が、抑えていた感情をぶつけ合うというお話。
“女心と秋(パリ)の空”とでも言うのか、どんな状況でも恋せずにはいられないパリジャン(ヌ)の想いが汲み取れる。魅力的出演者の中、子役ジョゼフ・エンゲルの存在が目を惹いた。
©2018 Why Not Productions
余命わずかと宣告された73歳の老女が、一人息子に迷惑かけまいと、自分のお葬式準備に奮闘する姿をユーモラスに描くロシア版「終活映画」。元教師ということで、自立心も旺盛。村の誰もが教え子だから、彼女の言うことは絶対!。無理を承知で掛け合い埋葬許可書や死亡診断書を段取りよく入手、死ぬ準備万端なのに、なかなかお迎えが来ないのだ…。意外にも切実さはなく、至る所に笑いが添えられている。冒頭から登場する「鯉」も脇役として良い仕事をした。
息子のお荷物にはならないと潔く死支度する母と、母の心肺停止を少しでも食い止めようと介護施設の入所を薦める息子。やはり母と息子の関係性は世界万国共通なんだと思った。
©OOO≪KinoKlaster≫,2017r.
Campeones
トラブルメーカーのプロ・バスケットボールのコーチと、知的障がい者たちのバスケットボールチーム“アミーゴス”との心温まる奮闘記を描く感動ストーリー。“勝つ”こと意外に興味がなかった男が、勝ち負けに囚われず何事もポジティブに受け入れる純粋無垢なt彼らと、まさかの全国大会を目指すことで、人生で本当に大切なものに気づかされていく話で、実在のチームを取材した新聞記事を基に作られた。実際に障がいをもつ10人の“名俳優”が出演したことで、真実味ある作品に仕上がった。
自分らしく一生懸命に突き進む。それこそが、“真のチャンピオン”であることを教わった。
©Rey de Babia AIE, Peliculas Pendelton SA, Morena Films SL, Telefonica Audiovisual Digital SLU, RTVE
「第13回岡山芸術文化賞功労賞」を受賞した人気コミックの映画化。岡山県備前市で陶芸に命を懸ける職人とその取り巻く人々との触れ合いを描いた感動ヒューマンドラマ。陶芸にとって大事なのは土、炎、そして人がいなければ備前焼は出来上がらないと説く人間国宝榊陶人の言葉は重い。この映画からは千年の伝統を引き継ぐ備前焼職人の苦悩が伝わってくる。常に最高のものを目指す新進気鋭の若竹修の気難しい孤高の職人の姿と一枚の備前の大皿に出会い、魅了されたことで陶芸の道に進んだ小山はるか。陶芸のことなど知らなくてもこの作品に感動出来る。
陶芸は“芸術”の一面、食器が前提。大皿をつくったことで修の家族と仲間の懐かしい思い出が蘇るシーンに心が熱くなった。
©2019「ハルカの陶」製作委員会
イラストレターで漫画家のあらいぴろよのコミックエッセイの映画化。タイトルの“隠れビッチ”とは、清純派を装いながらも男心を弄ぶ小悪魔女性のことで、過去の原作者自身のことでもある。次から次へと男たちを渡り歩き、その気にさせたら別れを切り出す嫌味な女。映画は好感度0%の最低の隠れビッチ女が、真実の恋と出会い、本当の自分と向き合うまでを描く成長物語。監督は「植物図鑑運命の恋、ひろいました」の三木康一郎。愛されたい願望が強い主人公の歪みや痛みをすくい取り、上手くまとめ上げた。
清楚な女とガサツな女。両極端の女性を快活に演じきった佐久間由衣の健闘が光る。シェアメイトの村上虹郎のバイセクシャルな演技も必見、森山未來の大人男性にもグッときた。
Ⓒ2019「“隠れビッチ”やってました。」フィルムパートナーズ/光文社
規制の厳しいイラン社会の権力に負けず、断固として己の映画製作に取り組む名匠ジャファル・パナヒ監督最新作は、過去、現在、未来を生きる3人の女優たちの物語。映画は夢絶たれた女優志望の少女の悲痛な動画メッセージを受け、少女の安否を確かめるため現地調査に向かった人気女優ジャファリと友人の映画監督パナヒ(どちらも本人役)が、往年のスター女優の枯れ果てた“今”と遭遇するという話をミステリー仕立てに描いた作品で、今も重んじる風習等が垣間見ることが出来る。
車一台がやっと通れる“曲がりくねった道”が印象的だが、その道の先には3世代の女優(女性)たちにとって“自由へと繋がる道であれ!”という監督の願いが込められている気がした。
©Jafar Panahi Film Production
2016年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作「わたしは、ダニエル・ブレイク」を最後に引退表明していた社会派監督ケン・ローチ待望の復活作。常に弱者の側に立ち、不条理な世の中を見つめてきた監督が、引退撤回してまでも伝えたかったのは、グローバル経済が加速し、ブラック企業が多々存在する今、企業側と労働者、そしてその家族に向けた「働き方改革」についてだった。
効果音もなく、人気スターの起用もない。理不尽な現状を、より生々しく描出する軸のブレない手法は「ケス」や「リフ・ラフ」の頃から全く変わっていなかったことが嬉しかった。
©Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019