家族の在り方をシビアに温かく描いてきたイタリアの名匠ジャンニ・アメリオ監督、待望の最新作は、イタリアのベストセラー作家ロレンツォ・マローネの原作「幸せであることの誘惑」を映画化した、親子の普遍的関係を描いたヒューマン・ドラマ。物語は娘との確執により独り暮らしをする老人が、隣人である子連れの若夫婦が起こした事件をきっかけに、ギクシャクしていた父娘関係に変化が訪れるまでが描かれるが、南イタリア、ナポリの陽気で楽観的なイメージとは裏腹に終始重々しい空気感の中で展開する。
愛人問題で父娘関係に亀裂が入り、独り暮らしをする老人ロレンツォ。隣に越してきた子連れの若夫婦と親しくなり束の間の疑似家族を体験。だがこのささやかな幸せは、若夫婦が起こした事件により、終止符を打つことになる…。普段交流を深めていても、肝心な時に頼りにならないのが“他人”であり、いくら疎遠になっていようと、仲たがいしていようと、いざという時に力を発揮するのが“家族”というもの。映画は、気難しい老人の言行動を通し、血の繋がり=家族の厄介さを語りかけているようにも見えた。
主演俳優の燻し銀の名演技。「しあわせは目指すものではなく、帰るもの」。娘のセリフも印象深く、父娘関係に一筋の“幸せ”が差し込むラストシーンに、胸がじんわり熱くなった。
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