※右端をクリックすると次のページに移動します。
「キャラメル」のナディーン・ラバキー監督最新作。わずか12歳くらいの少年が「両親を訴えたい」と告訴する衝撃的なオープニングから始まる本作は、中東の貧民窟で暮らす子供たちの「ありのまま」の姿を捉えた物語である。レバノン出身である監督が実際に貧困地域や、拘置所、少年刑務所などを訪れ、3年間のリサーチの末にドラマチックに描き出したフィクションではあるが、キャストのほとんどが映画初出演の素人であり、役柄同様の環境にいる人たちということで物語にリアリティが添えられ、メッセージ性の強さも感じた。
中東の貧民窟で両親と兄弟姉妹と暮らすゼイン。多分12歳。両親が出生届を出さなかったから、学校へも行けず、路上で商売をしている。11歳の妹が強制結婚させられたことに腹を立て家を飛び出したが、更なる追い風がゼインの身に降りかかるのだ…。映画は裁判シーンから過去へと遡り、告訴に至った少年の真意を解き明かしていく。途中、エチオピア難民の女性と乳飲み子と出会う辺りから物語は急速にドラマ性を帯びてくる。逞しい生き様に過酷な現状が浮き彫りになり胸が苦しくなった。
計画性のない両親から「愛される権利」を剥奪された少年。「両親を訴えたい」。生きることの残酷さを見せつけられた今、この言葉の重さの違いに気づかされることだろう。
©2018MoozFilms/©Fares Sokhon
バレリーナを夢見るトランスジェンダーの少女が「自分らしさ」を勝ち取るまでの痛ましくも希望に満ちた物語。2009年にベルギーの新聞に掲載された少女の記事に心打たれた、当時18歳のルーカス・ドン監督は、「いつか必ず彼女を題材に映画を撮る」と決意、約9年の月日をかけ完成させた意欲作である。長編映画デビュー作でありながら、第71回カンヌ国際映画祭<カメラドール 新人監督賞>を受賞。センセーショナルで繊細な語り口は、“第二のグザヴィエ・ドラン”と称され、世界から大注目を浴びた。
バレリーナを夢見て、日々レッスンに励む15歳のララ。男の体で生まれてきた彼女にとって、女の子としてバレエを踊ることは至難の業だ。涙ぐましい努力を重ねても、どうにもならない現状に、益々自分を追い込んでいくのだが…。本作は「偏見の目」を克服するのではなく、自分の夢を叶えるための「自分との闘い」を刹那的に描いているのが特徴で、常に「痛さ」が伴うが、唯一、理解ある父親の愛情に救われるだろう。
主演のビクトル・ポルスターは現役の男性ダンサー。女の子と勘違いしてしまうほどに可憐で華奢な容姿に心奪われ、よりヒロイン側のナイーブな心情に寄り添うことが出来た。
©Kris Dewitte
世界中の読者がを虜にしたパトリック・デウィット原作の「シスターズ・ブラザーズ」を映画化。無法者がのさばり、一獲千金を夢にみた時代の躍動感が伝わってくる作品だ。1851年、ゴールドラッシュに沸くアメリカ西海岸で、悪名高き殺し屋シスターズ兄弟は政府関係筋の依頼で、黄金を探す化学式を発見した山師を探しにカリフォルニアへ向かうが、黄金に魅せられた4人は、それぞれの思惑が交錯する中手を組み黄金を手に入れようとするが思いがけないラストが待ち受けていた・・・。
西部劇でありながらサスペンス色が強い作品に仕上がったのはフランスの名匠ジャック・オーディアールの手腕といえる。
©2018 Annapurna Productions, LLC. and Why Not Productions. All Rights Reserved.
優美な映像描写で女性たちを魅了してきた蜷川実花監督待望の最新作は、自身初となる男性を主人公(殺し屋)にしたサバイバル・アクションだ。殺し屋専用のダイナー(食堂)を舞台に、登場人物全員が殺し屋。食うか食われるかの熾烈なバトルを繰り広げるという、なんとも血の気が多く、目を背けたくなるようなクレイジーな設定なのだが、実花監督の手にかかれば、たちまちアートの世界へと変わる。さらに、玉城ティナ扮する孤独な娘の“自分探し”というテーマを柱としたことで、女性好みの作品にもなった。
舞台劇のような創りだが、写真家としての美意識の高さで各界のトップクリエイターと共に創り上げた映像世界は高揚感をそそる。またディズニー映画「不思議の国のアリス」や「リメンバー・ミー」の色合いもあり、クライマックスでは「マトリックス」を彷彿するド迫力アクションも用意されていて、気の抜く所などどこにもない。藤原竜也を座長に豪華キャストが勢ぞろい。宝塚カリスマ男役で一世風靡した真矢みきが男装の殺し屋として登場するなど、女性目線の演出も嬉しい。帝国劇場での観劇気分を味わった。
桜が舞い、水しぶきがあがる。その画描写は「近松心中物語」等、数々の名舞台を世に残した父、蜷川幸雄氏の演出が脳裏を霞め、娘だからこそ成しえた粋な計らいも楽しめた。
Ⓒ2019「Diner ダイナー」製作委員会
ドイツの知性派女性監督マルガレーテ・フォン・トロッタが、ニューヨークを舞台に贈るコメディタッチの女性のためのライフスタイル・ムービー。マンハッタンの超高級マンションのペントハウスに暮らすキャリアを優先するアメリカの女性と、突然このマンションに転がり込んできた家庭を優先するドイツの女性。夫が同じ男性で逃げられたという共通点をもつ二人が、マンションの所有権を巡り激しいバトルを繰り広げる…。元妻vs現妻の訳あり対決、果たして軍配はどちらの妻に?
生活スタイルも価値観も違う二人の衝突シーンが見どころで、どちらの意見にも賛同したくなる。ポップでスタイリッシュ。女性の普遍的テーマを見事に描出した監督の力量に完敗!
© 2017 Heimatfilm GmbH + Co KG
個性派俳優ポール・ダノ、初監督作品。ピューリッツァー賞受賞作家リチャード・フォードの同名小説を映画化した本作は、14歳の少年の視線から描いた家族の物語。父親の失業をきっかけに崩壊し再生していく家族の姿を、複雑かつ冷静に見つめていく息子の成長と共に描かれる。父親の出稼ぎ、母親の浮気。幸せだった家族が壊れていくことに不安感を抱きながらも、横道に逸れることなく「光」を目指す少年の健気な姿勢に心打たれる。少年役のエド・オクセンボールドの名演が光る。
感情を露わにする父親にジェイク・ギレンホール、良妻賢母から不貞の母親へと変化をみせたキャリー・マリガン。両親役としては少々若い気もするが、イメージを払拭し快演した。
©2018 WILDLIFE 2016,L,L,C.
カンヌ国際映画祭グランプリを受賞した鬼才グザヴイエ・ボーヴォワ最新作は、第一次世界大戦下のフランスで、戦地に赴いた男たちに代わり、家を守り続けた三人の女性たちの物語。まず目を惹くのはノスタルジックな田園風景。ミレーの「落穂拾い」や「種をまく人」などの美しい絵画そのもので、思わずうっとり。映画は農園の女主人、彼女の娘、そして雇人の若い娘のそれぞれに秘める想いを絡め、“農園”という戦場で逞しく生きる「女たちの戦い」を神々しく映し出していく。
大女優ナタリー・バイと、実娘ローラ・スメットの親子初共演も見どころだが、二大スターの前に堂々現れた新星イリス・プリーの瑞々しい魅力がひと際目立つ。歌も素晴らしかった。
©2017 - Les films du Worso - Rita Productions - KNM - Pathe Production - Orange Studio - France 3 Cinema - Versus production - RTS Radio Television Suisse
「淵に立つ」の深田晃司が、最も信頼する女優筒井真理子と再びタッグを組み、オリジナル脚本で挑んだ渾身作。ある事件をきっかけに、無実の加害者となった女性が、その運命を受け入れ、再び歩き始めるまでを描く「絶望」と「希望」のヒューマンサスペンスで、突然人生を狂わされ、絶望の淵に立たされた女が、生き抜くために放出する「多面性の顔」が、恐怖心と憐れみを誘う。映画のスタイルとしては“嫉妬”を生んだ「過去」と、“復讐”に燃える「現在」を交錯させ、希望の「未来」へと繋げていく。
仕事熱心で物腰も柔らかく、誰からも信頼を得ている訪問看護師の市子。ある日彼女の運命を大きく狂わす事件が発生する。女子中学生失踪事件。被害者は訪問先の娘。犯人は市子と関わりのある意外な人物。一瞬にして無実の加害者となり、仕事も結婚も失い「幸せ」とは無縁な人生を背負わされた市子は、もう一人の女性「リサ」となり、ある人物への復讐に燃えるのだった…。深慮深い女と、魔性の女。相まみれない女性の「よこがお」を筒井真理子が、痛みと叫びの演技で見事に表現。主演女優の風格を感じた。
市川実日子の役柄も強印象を与え、女の嫉妬の恐さを感じる。最後まで集中力が途切れず疲労感は否めないが、世界的に注目されても自分のスタンスを変えない監督の映画魂に感服。
©2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS
愛と犯罪と逃亡を描いたロバート・レッドフォード俳優引退作品。 1980年代に全米各地で銀行強盗が相次いだ。犯人は黄昏ギャングと呼ばれた伝説の銀行強盗フォレスト・タッカー。強盗らしからぬ笑顔と物腰にお洒落なスーツを着こなし、窓口で銃をちらつかせ、紳士的な態度で発砲もしなければ暴力も振るわないスマートな犯行スタイル。この役を年を重ねたとはいえダンディで満身の笑顔で魅了する。
この映画はレッドフォードへのオマージュ的演出が施されている。劇中脱獄の回想シーンは「逃亡地帯」の脱獄シーンを使用するなど、これまでのレッドフォード作品が垣間見える。
Photo by Eric Zachanowich. © 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved
家族や仕事、将来のことなどの問題を抱え、日々格闘している冴えないおっさん8人衆が、突如男子シンクロナイズド・スイミングに目覚め、まさかの世界一を目指すフランスおっさん版「ウォーターボーイズ」。俳優としても活躍するジル・ルル―シュの初の単独監督作である本作は、スウェーデンに実在する男子シンクロチームをモデルにしたもの。自信を失くした男たちが中年太りのぶざまな体をさらけだし、スパルタ女コーチのパワハラにも負けず人生の巻き返しに挑む姿に感動!
フランスを代表する名俳優が水着一丁で体当たりする加齢(?)なる水中の舞いにご期待ください(笑)
©2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions
「ゆらり」に続き本作が長編第二弾となる横尾初喜監督が、故郷長崎の街を舞台に描く反自伝的ストーリー。両親の離婚により幼い頃に父親と別れた兄弟が、時を経て父の行方を探す物語。父を知らずに育ったことで「孤独」と向き合い生きてきた兄弟。記憶だけが、唯一父との想い出であり、父を探すことは今一度「家族」というものを知る手がかりでもあったのだ。海と坂道に囲まれた風光明媚な長崎の街並と、兄弟の繊細な心情がマッチ。琥珀色の心に希望の色が射すラストは感動的だった。
「孤独」を背負い「幸せ」を乞う対照的な兄弟。堅実な弟に演技派の井浦新。いい加減な兄にR1チャンピオンのお笑い芸人アキラ100%が、本名大橋彰として俳優として参加した。
Ⓒ2018「こはく」製作委員会
政権スキャンダルを内閣が隠そうとするタブーに迫る女性記者と、それを防ぐ立場の若手エリート官僚の葛藤する姿を描いたマスコミサスペンス。ある日東都新聞の記者・吉岡エリカのもとに、医療系大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXが届く。内閣情報調査室の杉原は、日々現政権に不都合なニュースを削除する任務に追われていた。ある日、杉原の尊敬する元上司の神崎が突然投身自殺をしてしまう。自殺の原因を調べ始めると、関わっていた仕事にあることを突き詰める。謎のFAX真実を調べていた吉岡も、現政権の暗部を知る。2人のたどり着いた事実とは・・・。
ラストシーンの杉原の目の権力に下った悲哀が印象的だ、正義が勝つとは限らない。しかし問題を明らかにする行動が心を打つ。
©2019「新聞記者」フィルムパートナーズ
妻夫木聡と豊川悦司が共演した孤独な男たちのアウトローな世界を描くサスペンスアクション。とにかく無口でアウトローさを醸し出す豊川が演じる島と、お気楽で馴れ馴れしい若者牧野役の妻夫木、この二人の不調和音のような関係が面白い。世間から身を隠すように異国の地、台北で暮らすヤクザの島。そこに近づいてきた日本人の牧野はお調子者でなれなれしいが、なぜか初対面の島のことを知っていた。つながりがはっきりしない島と牧野の関係。
しかし牧野も何者かに命を狙われここに流れ着いたことを知り、一緒に台湾東海岸の町・花蓮へと向かうことに。そこで出会った女性こそ、牧野と島の関係をつなぐ人物だった・・・。
© 2019 JOINT PICTURES CO.,LTD. AND SHIMENSOKA CO.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED
人気コミックス原作の映画化第二弾。人を喰らう化け物"喰種(グール)"が存在する東京で、ある事件がきっかけで人間と喰種のハーフになってしまった金木研は、2つの世界の狭間で葛藤しながら喰種たちの駆け込み寺である喫茶店「あんていく」で生きていた。そんなある日“美食家(グルメ)”を名乗る月山習が「あんていく」に現れる。月山の狙いは特殊な「におい」を持つ金木だった・・・。
衝撃的だった前作のオープニングが印象に残るだけに、それ以上を期待しハードルが上がってしまった。登場人物らの存在は悪くないのだがインパクトが弱くなったように感じた。しかし前作を超えるバトルシーンは原作ファンも納得の映像に仕上がっている。
©石田スイ/集英社 ©2019「東京喰種【S】」製作委員会
「新感染 ファイナル・エクスプレス」のマ・ドンソクが、誘拐された妻を救出するハードアクション。愛する妻ジスと穏やかに暮らすドンチョルは、ちょっとしたもめ事でジスを怒らせてしまう。慌ててドンチョルが自宅へ帰ると部屋は荒らされ、ジスの姿はなかった。そこへ ジスを誘拐した人物から金の請求ではなく、逆に金を渡すからジスのことは忘れろと電話が入る。
怒りが止まらないドンチョルは、警察に頼ることなく妻救出に動き始める。彼はかつて闇の世界で一度キレたら誰にも止められない「雄牛」と恐れられていた存在だったのだ・・・。
©2018 SHOWBOX, PLUSMEDIA ENTERTAINMENT AND B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.
世界初大麻を合法化した南米ウルグアイ。密輸業者を排除し、国が栽培できるまで米国で供給ルートを探せ!という大統領からのまさかのミッションを受けたのは、薬局屋を営む母と息子だった…。この法案の賛否を巡り、ウルグアイ国民の間に緊迫感が流れたことで、ウルグアイの若手監督三人が勇気とトンチを絞り、その場の雰囲気に呑まれながら脚本を練り作り上げた。当時の大統領の友情出演にも驚いた。
トラブルにも動じず、大麻のためにアメリカ中を駆け回る親子の姿に「どっきりカメラ」かと、思わずツッコミをいれたくなった(笑)
©Loro films