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THE WHITE CROW
伝説のバレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフ。60年代、ソ連のバレエ団に所属し類まれな才能を開花。国の全期待を背負っていたにも関わらず突如フランスに亡命。ソ連の亡命者たちの先駆者となった。ちなみに日本での公演は83年の松山バレエ団。森下洋子さんと「白鳥の湖」を踊ったことを子供だった私は今でも鮮烈に覚えている。その10年後ヌレエフの訃報が届いた。54歳という若さだったとは改めて驚いた。そんな私的思い入れの強い「ヌレエフ」。彼の生立ちから亡命までの物語は実に興味深かった。
映画は、貧しい環境で生まれ育った彼が、バレエと出会うまでの少年時代と、共産主義という政治的縛りの中で、自由を求め亡命を決意するまでの青年時代のヌレエフを交錯させ描いていく。踊ることが好きで、広い視野で世界を吸収したかったヌレエフ。20年間の構想の末、念願の映画化に成功した俳優のレイフ・ファインズ。バレエシーンを沢山盛り込みながらも、KGBの厳しい監視下で自分を表現できない一人の青年の激しい感情を映像化、「バレエ映画」の枠を超えた。「亡命」シーンもドキドキだった。
踊りも顔もヌレエフそっくり。現役ダンサー、オレグ・イヴェンコが新鮮。演技も頑張った。欲を言えば現代の異端児ダンサー、セルゲイ・ポルーニンの踊りをもう少し見たかった。
©2019 BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND MAGNOLIA MAE FILMS
「湯を沸かすほどの熱い愛」が高く評価された中野量太監督待望の最新作は、認知症を患った父親と家族の7年間に渡る愛の歩みを描く感動作。原作は「小さいおうち」の中島京子の同名小説で、中島自身の父親との実体験をもとに生まれた物語だが、今回映画化するにあたり原作での三姉妹から二人姉妹へ、何人かいた孫も一人へと設定が変えられたことで、より濃密な家族像が構築された。辛い介護に焦点を当てるのではなく、常に父親が中心にいて、残された者たちの人生に絡んでいくという話の流れも新鮮だった。
父親の70歳の誕生日。久しぶりに帰省した娘たちは、母親から厳格だった父親が認知症になったことを告げられる。姉妹もまたそれぞれに問題を抱えているが、父親の病をきっかけに絆を深め、「家族」としての道のりを再び歩き始めるのだ。トンチンカンな言動で絶えず周りを驚かす父。名優、山崎努の抜群の演技は、愛嬌があり優しさがある。松原智恵子の献身的な妻役は娘のようで本当にチャーミング。両親のことになると、居ても立ってもいられなくなる竹内結子、蒼井優姉妹の娘心は同世代として共感した。
認知症は、少しずつ記憶を失くし、ゆっくり遠ざかっていくその様子から、アメリカでは「Long Goodbye(長いお別れ)」と表現されていることで、このタイトルがつけられた。
Ⓒ2019「長いお別れ」製作委員会
Don't Worry, He Won't Get Far on Foot
自動車事故の後遺症から半身不随となるが、自暴自棄を乗り越えて風刺漫画家として第二の人生を成功させたジョン・キャラハンの半生を描いたヒューマンドラマ。人間は弱い、しかしそこから立ち上がる姿は美しく、感動を与えてくれる。風刺漫画家ジョン・キャラハンの半生に感動し、ロビン・ウィリアムズは自ら主演で映画化を進めていたが、2014年不慮の死で企画が頓挫した。しかしその遺志を継ぐ形でガス・ヴァン・サントが脚本を執筆、監督し20年越しで完成させた。
酒に溺れ、事故で半身不随となり、自暴自棄から人に罵声を浴びせまくる主人公をホアキン・フェニックスが熱演。
©2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC
薬物依存症の息子と、息子の更生を信じ強い愛で守ろうとする母の“衝撃と感動”の物語。物語は、クスマス・イヴの朝、19歳の息子が薬物依存症の施設から抜け出してきた所から始まるが、家族や本人の意志だけでは安易に過去を清算できるものではない世の中の邪悪なシステムをシビアな目線から語っていく。特に、家族には決して見せない息子の別の顔がじわじわと浮き彫りになっていく様子は意外性があり、「薬物依存症」を描いた他の家族ものとは一線を画した作品になっている。
決して諦めない強い母をジュリア・ロバーツがキャリア最高の演技で熱演。監督の実息子で若手演技派ルーカス・ヘッジズもまた好演した。
©2018- BBP WEST BIB, LLC
国の攻防に対し憲法9条の壁などと問題視する現在の日本で、笑っていられない映画が現れた。「沈黙の艦隊」のかわぐちかいじの「空母いぶき」の映画化は衝撃的だ。国籍不明の軍事勢力が突然日本の領海に侵入し領土の一部を占拠する。攻撃を仕掛けてくるのは間違いない中、憲法9条の壁から攻撃をすることは出来ない。日本国民を守るため、日本政府は初の航空機搭載型護衛艦「いぶき」を中心とした護衛艦群を現場に派遣し、万全を喫するのだが・・・。
今回自衛隊の全面協力で描かれる攻防戦の迫力は満点で、機械を扱う個々のレベルの差は無く、すべて機械の性能で決まる現代の戦闘はゲーム感覚に近い。
©かわぐちかいじ・惠谷治・小学館/「空母いぶき」フィルムパートナーズ
韓国はキリスト教系の国と認識していたが全編を仏教の教えを基本に人が死んだ後を描いている。それぞれの関門となる裁判の魔王がユニークだが生前の行いで判決を受けるシビアさに、人間に生まれ変わることの大変さが伝わってくる。 大規模な火災で人を助け不慮の死を迎えた消防士ジャホン。死んだことに気づかない彼の元に現れたのは冥界から来た3人の使者ヘウォンメクとドクチュン、カンニムだった。人間は死ぬと49日間に7つの地獄の裁判を受け、無罪で通ると生まれ変わることができる。
ジャホンの生前の善行から19年ぶりの貴人として人間への転生を確実視されるていたが、裁判が進むにつれ地獄鬼や怨霊が出現し、冥界が揺らぎはじめる・・・。
©2019 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS All Rights Reserved.
フランスで実在した女性作家コレットの物語。ココ・シャネルに愛され、自著の舞台化「ジジ」では当時無名だったオードリー・ヘプバーンを大抜擢した人物でも知られるが、本作は、片田舎に生まれ育った少女が、いかにしてフランスを代表する人気作家になったのかを、14歳年の離れた小説家ウィリーとの波乱に充ちた結婚生活や、ベストセラーとなった処女作「クロディーヌ」シリーズの誕生秘話などのエピソードを通し鮮烈に描く、一人の女性の愛と成長と自立の半生の物語である。
夫のゴーストライターとして献身的に尽くすコレットの姿は、グレン・クローズ主演の「天才小説家の妻 40年目の真実」と被るが、キーラ・ナイトレイも情熱的に美しく演じた。
©2017 Colette Film Holdings Ltd / The British Film Institute. All rights reserved.
「嘘つき男」と「車椅子の美女」の「嘘」からはじまった恋を、洒落たテイストで描くフレンチ・ラブコメディ。「嘘八百」を並べては、美女のハートを射止めてきた金持ち軽薄男ジョスラン。新しい恋のお相手は「車椅子」という障がいをもちながらもアクティブに生きる美女フロランス。「自分も車椅子だ」と嘘をつき彼女の気を惹こうとするが…。主演・監督・脚本は人気コメディアン、フランク・デュボスク。初監督とは思えぬテンポの良さで、あらゆる障がいも吹き飛ばす「愛」の偉大さを大らかに描出した。
世間的には成功者にあるジョスランよりも、実は一枚上手であったフロランスのキャパシティの大きさに感涙、奥行きの広い「大人の恋」を実感した。本国大ヒットも頷ける良作だ。
©2018 Gaumont / La Boétie Films / TF1 Films Production / Pour Toi Public
水谷豊の長編映画監督第2作品目。水谷自ら書いた完全オリジナル脚本。ひき逃げ事件をきっかけにそれぞれの加害者、被害者の両親、事件を追う刑事たちの立場から見える人間模様を描きながら、人間の心の“本心”を浮き彫りにしたテーマはあまりにも重い。しかし水谷豊が訴えるメッセージは十分伝わってくる。役者の力量を問われる題材だが、若手の演技に熱を感じる。 地方都市でひき逃げ事件が起こる。車を運転していた宗方と助手席にいた親友の森田は、宗方の結婚式間近を理由に思わずそこから逃げてしまう。被害者の両親は悲しみに伏し、犯人逮捕を待っていた・・・。
犯人捜しの単なる刑事事件モノではない。人は仲良く付き合っていても人の心の中は見えない。犯人を取り調べシーンで人間の心理が露見するところは注目である。
©2019映画「轢き逃げ」製作委員会
平成で最も売れている時代劇小説シリーズの佐伯泰英原作「居眠り磐音 決定版」シリーズを映画化。友を斬り愛する人と別れ、江戸で慎ましく過ごす坂崎磐音を演じたのは時代劇初主演の松坂桃李。優しさと明るさを持つ磐音の下町庶民らしさに共感を感じつつも悪と対峙するときの孤高の剣の鋭さが作品の要になっている。中村梅雀、谷原章介、柄本明など個性的な名脇役との共演でも演じ負けしない“芯”の演技は必見だ。 豊後関前藩の江戸勤番を終えた坂崎磐音と幼馴染の小林琴平、河井慎之輔ら3人は郷里に戻るが、妻の舞の不貞の噂を聞き慎之輔は逆上し舞を斬ってしまう。激高した舞の兄、琴平は慎之輔と噂を吹き込んだ慎之助の叔父を斬る事態に発展。
藩の処分は琴平死罪。江戸の長屋で浪人なった磐音は、昼は鰻割きとして働き、夜は両替商・今津屋の用心棒をしていた・・・。
©019 映画「居眠り磐音」製作委員会
シリーズ累計発行部数470万部を突破し、河本ほむら氏が原作、尚村透氏が手掛けた同名人気コミックを実写映画化。全編賭け事勝負シーンと駆け引きのみで構成されているが、そこには人間の心の奥に潜む本性が怖い。勝ちへの執着、負け犬と言われ屈する中にも浮上しようとする心、改心したと言いながら状況が一変すると出す本性。こんな残酷な人間の本性をむき出しにして高校生がゲーム感覚で行う。怖いし醜い。だけどスリリングで面白い。このジャンルの先駆者福本先生も満足する作品だ。
ギャンブルの強さが階級を決めるという私立百花王学園を舞台に、謎めいた転校生・夢子(浜辺)がギャンブルの強豪に挑む数々の勝負を描く。
©2019 河本ほむら・尚村透/SQUARE ENIX・「映画 賭ケグルイ」製作委員会
人気インディーズデュオ「ハルレオ」の結成から解散、再結成までを心に響く楽曲に乗せて贈る青春音楽エンタティメント。解散を決意した「ハルレオ」と付き人シマ。微妙な三角関係が続く中、解散ツアーに出た彼らが最後に導き出した答えとは?魅力的なレオに小松菜奈、抜群の才能をもつハルに門脇麦。さらに一番の常識人、付き人シマに成田陵。音楽、友情、恋愛、そして旅。「害虫」「どろろ」の塩田明彦監督が青春映画の醍醐味をもって、こじれてしまった絆の修復を感動的に描出した。
主題歌「さよならくちびる」は秦基博、挿入歌はあいみょんが担当。ハルレオ(門脇麦・小松菜奈)の澄んだ歌声は聞く者の胸にまっすぐ届く。音楽が与える影響力の凄さを感じた。
Ⓒ2019「さよならくちびる」製作委員会
四季折々の食と癒しの五十嵐大介原作漫画を韓国で映像化。日本版は橋本愛主演で二部構成で映画化されている。主役のヘウォン役には、パク・チャヌク監督の『お嬢さん』で1,500倍の競争率からキャスティングされたキム・テリ。 就職も恋も上手くいかないヘウォンは、ソウルの生活に疲れ果て、幼少期に過ごした村に帰郷する。そこには幼なじみのジェハ、ウンスクが暮らしており、彼らとの友情と地元住民との触れ合いを通してヘウォンの心は癒やされていく・・・。
日本と韓国の料理の違いはあるが、季節ごとに取れた野菜を使った料理は美味しそうだ。 決して凝ったものではなく、心が癒されていく瞬間の俳優さんの笑顔がいい。
©MEGABOX PLUS M
The Silent Revolution
ベルリンの壁が建設される5年前の東西冷戦下の東ドイツで起こった衝撃実話。1956年のハンガリー動乱をきっかけに将来の明暗を選択させられた若者たちの「正義ある行動」と「小さな反抗」を描く。原作者ディートリッヒ・ガルスカの体験談を映画化。ハンガリー動乱の光景を見た2人の高校生がクラスメートと共に、ハンガリー市民への哀悼の気持ちで行った「2分間」の黙祷が「国家反逆」とみなされ、大学進学か労働者かという選択を迫られ究極の決断を下すまでの葛藤劇が描かれる。
政治弾圧に縛られた若者達の苦悩や葛藤を軸に青春群像劇へと塗り替えたラース・クラウメ監督の手腕を褒めたいと思う。
©Studiocanal GmbH Julia Terjung
どこの国でも怪談話があるが、メキシコの有名な怪談話“ラ・ヨローナ”をモチーフにホラー界の巨匠ジェームズ・ワンが製作。夫が浮気をして出て行ったことに嫉妬して二人の息子を殺してしまい自ら命を絶ちこの世への怨念と懺悔から死霊となり、数百年経っても子供を襲うというあたりは日本の怨霊と共通する。しかし次から次へと襲い掛かるパワーが凄い。実体が無いのに力技攻撃の連続。最後に牧師の登場と素晴らしい展開。日本はジメジメと精神的に追い詰めていき最後は助からないことが多いだけに、エンターテイメント性を感じてしまう。
この作品は小細工無しの王道ホラーで間延びもない。ジェットコースターのようだ。俳優の個々の演技力より怖い映画を楽しむと割り切ってみれる後味の良い素晴らしい作品だ??!
© 2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
4人の大学生が図書館から時価1200万ドルのビンテージ本を盗んだ強盗事件を映画化。映画「レザボア・ドッグス」を参考にして立てた計画のずさんなこと。逃走ルートも確保出来ず、みんながいる前を荷物を抱えて逃げる姿は笑えないコメディだ。パニックに陥り事故を起こし、罪の重さから自首?してしまうなど素人そのもの。実話の映画化と言えば格好いいはずが、本人も出て懺悔するなど惨めさ満開。お金に困った若者が教訓に見るのに推奨したい。
世間を驚かすことをしたいの行動が窃盗とは情けない。しかし世間にアピールは出来たのだから本望でしょう。
©)AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018