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戦争のリアルさを出すために選んだ手法がワンショット撮影。そもそも原作はメンデス監督が幼少時代に祖父から聞かされた大事世界大戦での伝令の自伝だった。これまでの戦争映画は勝利するヒーローモノだったが、この作品はあくまでも一人の若きイギリス兵が最前線の部隊を救うために、ただただ走って伝令する映画なので、カッコいい無敵のヒーローは存在しない。
若き二人のイギリス兵、スコフィールドとブレイクが、兄のいる最前線の部隊1600人の命を救うべく、ドイツ軍の戦略に対する軍の重要な伝令を伝えるため、危険が待ち受ける敵陣を通過して駆け抜ける・・・。
©2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved
「天国の日々」「シン・レッド・ライン」「ツリー・オブ・ライフ」の巨匠テレンス・マリック待望の最新作は、第二次世界大戦時に、ヒトラーへの忠誠を拒絶し、ナチスへの加担も拒み、己の信念を貫くために「死」を選んだ名もなき農夫の短くも尊い生涯を描いた物語である。伝説の映像作家の異名をとるテレンス・マリック監督が、キャリア46年にして初めて実話を映画化したことでも話題となり、第72回カンヌ国際映画祭では「人間の内面を豊かに描いた作品」に贈られるエキュメニカル審査委員賞を受賞した。
農夫の名はフランツ。オーストリアの小さな村で、妻と三人の娘と静かに暮らしている。畑を耕し、種を撒く。そんな平穏な生活も彼のもとに届いた召集令状により一変する。兵役も拒否し、ヒトラーへの忠誠も拒絶する彼は直ちに監獄送り。妻も「裏切者の妻」として村人たちからひどい仕打ちをうけるのだ。山々が連なり自然光が神々しい牧歌的映像から、「神」も見捨てたかのような暗黒の映像へ。それは名もなき男の生涯に色づけしているかのようだ。主演アウグスト・ディールの憤りの演技も印象を残した。
「罪なき人は殺せない」。強い信念を貫いた農夫とその生涯を見守った家族の愛の物語を、詩的な描写と独特の「間」で描いた芸術超大作。映像魔術をじっくり味わう175分だ。
©2019 Twentieth Century Fox
全米ニュース放送局で視聴率NO.1を誇る「FOXニュース」で働く女性キャスターが、CEOのロジャー・エイルズをセクハラで告訴し、勝利した衝撃実話。この事件は、世界中に配信され一大スキャンダルとなったが、ロジャーの急死と、告訴した女性が会社側と和解したということで、事の詳細は明かされず終焉したという。そこで「マネー・ショート華麗なる大逆転」のアカデミー賞®受賞脚本家と、本作のプロデューサー兼主演のシャーリーズ・セロンが立ち上がり、入念なリサーチの末見事映画化にこぎつけた。
2016年。「FOXニュース」のベテランキャスター、グレッチェン・カールソンが、CEOのロジャー・エイルズからの性的関係要求を拒否したことで一方的に解雇され、セクハラで告訴、彼女の勇気ある行動に心動かされた局内の女性たちの逆転劇が始まるのだ…。冠番組のメインキャスター話をエサに、性的関係を求めてくるセクハラ親父。映画は立場もキャリアも違う三人の女性キャスターの視点から、セクハラ、パワハラ、トランプ大統領との交友関係など、アメリカ社会のスキャンダラスな内情をすっぱ抜く!
シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビー。三大女優が実在の人物を特殊メイクで完璧になりきった。特にシャーリーズ・セロンの別人顔にはビックリ仰天!
©Lions Gate Entertainment Inc.
ライアン・ジョンソン監督の新作はアガサ・クリスティをオマージュしたオリジナルの密室殺人ミステリー。自ら脚本を書き監督をした本気度は、豪華な出演陣に緻密に仕組まれたストーリーからも伺える。伏線のようにちりばめた小道具にも注目。 世界的ミステリー作家ハーラン・スロンビーの85歳の誕生日パーティーの翌朝、ハーランが遺体となって発見される。真相究明に依頼を受けた名探偵ブノワ・ブランは、事件の調査を進めていく中で、事件の根本に莫大な資産問題があることを掴む。
ハーラン家の子どもたちとその家族、家政婦、専属看護師と、屋敷にいた全員が事件の第一容疑者となったことから、裕福な家族の裏側に隠れた人間関係があぶりだされていく・・・。
Motion Picture Artwork ©2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
2030年の近未来の日本はAIがすべてを支配し、人間が生きる価値を選別され殺害される立場となっていた。そんなAIの暴走の恐怖をオリジナル脚本で描いたSFサスペンス。 2030年、天才科学者、桐生浩介は亡き妻のために開発した医療AI「のぞみ」。年齢、年収、家族構成、病歴、犯罪歴のすべてのデータを全国民の個人情報と健康を管理していた。社会インフラとして欠かせない存在となった「のぞみ」が、突然、暴走を始める。AIが生きる価値のない人間を選別して殺戮するという、恐るべき事態が巻き起こる・・・。
最近では珍しい入江監督のオリジナル脚本で、ハリウッド級の迫力でメガホンを撮る。
©2019「AI崩壊」製作委員会
昭和の文豪太宰治の未完の遺作「グッバイ」を、鬼才ケラリーノ・サンドロヴッチが独自の視点で完成させ上演した舞台劇の映画化。読売演劇大賞最優秀作品賞、最優秀女優賞(小池栄子)、優秀演出家賞を受賞した名舞台を観劇し感激した「八日目の蝉」でお馴染みの成島出監督がメガホンを撮った。戦後の混乱から復興に向かう昭和のニッポンを舞台に、ワケあって「嘘夫婦」を演じることになった、女にモテモテのダメ男と「お金が命」のパワフル女の「おもろい夫婦」の物語。笑いと涙の人情喜劇の幕が開く。
疎開先に妻子を送りっぱなしのまま、愛人問題で忙しい文芸雑誌の編集長・田島周二。ようやく愛人と別れる決意をした彼が、闇家業でそこそこ稼いだ金をつぎ込み「嘘の妻」に選んだのが、金にがめつく大食いの担ぎ屋・キヌ子だった…。舞台版でもキヌ子役を演じた小池栄子の堂々たる演技に、天下の大泉洋もタジタジ。カラス?のようなダミ声でガサツな女を演じたかと思えば、上流社会のマダムのような装いでエレガントに演じきる。濱田岳、松重豊、木村多江と実力派俳優も尻に引く小池栄子の女優力に驚いた。
無念の遺作が思わぬ形となって蘇っているが、太宰も納得の結末だったのではないか。それにしても女にだらしのない“人間失格”ような田島は、太宰の分身なのかもしれない…
Ⓒ2019「グッドバイ」フィルムパートナーズ
ちまたで人気の体験型エンタテインメントを題材にしたシサスペンススリラー。密室デストラップといえば名作「キューブCUBE」が有名だが、この作品はセットが大掛かりでトラップも良く考え抜かれている。キューブのトラップ以上にエンタメ性も素晴らしいのだが、トラップが複雑すぎて解読の仕方が判り難いのが難点。
謎の送り主からの賞金1万ドルの懸かった体験型脱出ゲームに6人が参加することになる。理系女子大生ゾーイ、フリーターのベン、元陸軍兵士のアマンダ、一流投資家ジェイソン、中年のトラック運転手マイケル、ゲームマニアのダニーは、外界から隔絶された部屋に閉じ込められゲームがスタートする。次々に繰り出される死のゲームに翻弄される6人。実はゲーム参加メンバーにはある共通の過去があった・・・。
©2019 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
「女は二度決断する」のドイツの名匠ファティ・アキン監督最新作は、1970年代のドイツに実在した連続殺人鬼フリッツ・ホンカの物語。70年から75年にかけ、4人の娼婦を惨殺。曰くつきのバー「ゴールデン・グローブ」に出入りし、中年の娼婦をターゲットに家に連れ込み殺害する。フリッツ・ホンカとは何者で、どんな生立ちを送ったのか。監督はそんな観客の質問に答えることはせず、安アパートの屋根裏部屋で起こるおぞましい殺害状況を淡々と生々しく描き、昨今稀に見る会心作を生み出した。
交通事故で負傷した砕けた鼻が特徴。猫背でグロテスクな人相。酒を飲むと一変。意外にプライドも高く、女たちから罵倒されるとカッとなり狂気の殺人鬼と豹変する。肉々しく悪臭が漂う不快な作品ではあるが、何故か目が離せない。それは何といってもフリッツ・ホンカを怪演したドイツの22歳の新星ヨナス・ダスラーの存在が大きい。3時間の特殊メイクを施し、絶世の美男子から醜い男に大変身。風貌だけではなく全身全霊でホンカに成りきり、スター俳優の枠に留まりたくないという意思表示をした。
「ノートルダムのせむし男」のような風貌と「ジョーカー」のような残忍さをもつフリッツ・ホンカ。ホアンキン・フェニックスにも引けをとらない俳優ヨナス・ダスラーに大注目だ。
©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathe Films S.A.S./Warner Bros. Entertainment GmbH
沼田真佑の芥川賞受賞作「影裏」に惚れこんだ「るろうに剣心」「龍馬伝」の大友啓史監督が映画化。監督の出身地岩手県盛岡市を舞台に、見知らぬ土地に赴任してきた青年が、東日本大震災後に失踪した親友の足跡を探ることで、親友の本当の姿を知ってしまうという話で、綾野剛演じる主人公今野の静観な目線から、人間誰もが持っている裏の顔(影裏)の部分に深く入り込んでいく。酒を酌み交わし、釣りをする。他愛のない会話から浮かび上がる人間の影。綾野剛と松田龍平の競演が尺の長さを感じさせなかった。
自身が意識し挑んだ「佇む」演技から、今野の人間性を上手く表現した綾野剛。風来坊、日浅役の松田龍平の掴みどころのない演技が、この作品をよりミステリアスに色づけした。
Ⓒ2020「影裏」製作委員会
La promesse de l’aube
女優ジーン・セバーグの夫という多彩な経歴をもつフランスの文豪ロマン・ガリ。その波乱万丈の人生を綴った自伝「夜明けの約束」を映画化した本作は、狂気なほどに強い愛情を注ぐ母と、その愛に応えようとする息子の深い絆の物語。映画は常に母の傘下で生きてきた息子が、第二次世界大戦勃発により一人戦地に赴き、その先々で届けられる250通にも及ぶ母からの手紙に励まされ、母の思い描く人間になろうと奔走する姿を、あたかも歴史絵巻のごとく壮大に描いていく。
ピエール・ニネのマザコン息子の熱演についつい惹きこまれる。ロマン・ガリの驚きの人生は、まさに母の理想とする人生だったのだ。
©2017 - JERICO-PATHE PRODUCTION - TF1 FILMS PRODUCTION - NEXUS FACTORY - UMEDIA
イギリス人女性作家ナオミ・オルダーマンの自伝的原作に出会い、惚れこんだオスカー女優レイチェル・ワイズがプロデューサーとして参加、主演。厳格なユダヤ教信者の家庭に生まれ育った二人の女性のレズビアンな関係を通し、本来あるべき人間の姿と、自由を選択することの意義を強く訴えかけた感動作。「ナチュラルウーマン」同様、自己表現に苦悩する女性たちをレリオ監督が力強く繊細に描出した。
信仰を捨てたロニートと敬虔な信者の妻エスティ。一度は引き裂かれ、封印していた想いが突然の再会により燃え上がる。ワイズとマクアダムスのWレイチェルの熱い共演にも注目。
©2018 Channel Four Television Corporation and Candlelight Productions, LLC. All Rights Reserved.
決して大きな事件は無いが、普通のOLの日常をつづったバカリズム原作の深夜ドラマを映画化。元々はバカリズムがブログでOLの架空の日常を綴ったブログ「架空升野日記」が原作。2016年に深夜ドラマと同じキャスティングは気心が知れているのか、映画は自然な流れで進行していく。しかしドラマを見ていない人はなぜバカリズムがOL?、特に女性メイクもしていない為か不思議に思って観ていたが、そのうち違和感は解かれ普通のOLの日常がタンタンと進んでいく。
上司の悪口の辛辣さや社内での細かい不満の連続に圧倒されるが、思わず納得し笑ってしまう。しかし最後にハッとさせるエンディングはよく出来ている。これこそがバカリズムが仕掛けたトラップなのかもしれない。純粋に頭を使わない楽しい映画である。
©2020「劇場版 架空OL日記」製作委員会
女優、カメラマン、アーティストとして活躍し、現在は映画監督として海外に活躍の場を移しているHIKARIの長編映画デビュー作。身体に障がいをもつ23歳の女性の自立と成長の冒険物語を丁寧に描出した。タイトルの「37セカンズ」とは、主人公のユマが出生時に息をしていなかった時間であり、ユマの人生を大きく変えてしまった時間のこと。障がいという世界でしか生きてこられなかった女性が、自分の意思で未知の世界へと足を踏み入れ、一人の女性として生まれ変わる姿がとてもいじらしかった。
親友のゴーストライターとして漫画を描くことに蟠りを感じ、過保護すぎる母親に息苦しさを感じているユマ。いつか自分の力で「障がい」という殻を破りたいと思っている。そんな時公園で拾ったアダルトコミック誌が、ユマの人生を大きく変えていく。性の意識を目覚めさせたアダルト誌。出会うことなかった人たちと巡りあい、ユマの世界観が広がっていくのだ。“人生は自分次第で変えられる”。実際に脳性麻痺を患うユマ役佳山明のポジティブな演技に逆に励まされ、寺田心君のような可愛い声にも和まされた。
過剰に過敏に娘と接する母親役の神野三鈴の負い目の演技、外の世界を教えてくれた風俗嬢役の渡辺真起子の開けっ広げの演技にも「愛」がある。全編を通し「心」を感じる作品だ。
Ⓒ37Seconds filmpartners
人生逆転を賭けた最後の大勝負、作者不明の肖像画に魅せられた老美術商とその家族愛を描いたヒューマンドラマ。ある日オラヴィはオークションハウスで1枚の肖像画に魅せられる。孫と一緒に作者を探し始め、ある本から近代ロシア美術の巨匠イリヤ・レーピンの作品という証拠を掴む・・・。
仕事の楽しさを伝えることで校正させるオラヴィの姿に高度成長期の日本のお父さんの姿が被る。家族愛を再認識させられる映画である。
©Mamocita 2018
全国に点在する心霊スポットは、都市伝説化され人々の好奇心の対象になっているが、今回福岡県に実在する言われる心霊スポットを舞台に「呪怨」シリーズで有名な清水崇監督がメガホンをとった。この作品は日本人独自の文化的恐怖がジワジワと迫りくる演出が嫌だ。振り向くたびに幽霊が近づいてくる、いわばダルマさんが転んだ的演出が恐いのだ。そして幽霊に欠かせないのが“水”、劇中トンネル近くの電話BOXで溺死するシーンは世界を席巻した清水監督ならではのオンリーワン演出が凄い。
弟の彼女が心霊スポットで有名な「犬鳴トンネル」に行ったことで突然発狂して自殺をしてしまう。彼女が最後に目撃したものとは一体何なのか? 心霊スポットでの悪ふざけがいかに危険かを知らされる最恐映画です。
© 2020「犬鳴村」製作委員会
広報活動も時代と共に変わった。ダムやトンネルなど数々の大型ゼネコン事業で有名なあの前田建設工業株式会社が、「アニメやゲームに登場する建造物を実際に作ったらどうなるか?」を真面目に検証する「前田建設ファンタジー営業部」を創設した。当然WEBコンテンツでの広報活動の一環なのだが、この部署の活動を、ベースに劇団ヨーロッパ企画の上田誠が脚本、英勉監督が映画化したビジネスファンタジーコメディ。
チーム長役の小木博明のハイテンションの演技が違和感を感じないくらいオタクな内容に引き込まれていく。真剣な姿はいい、たとえ空想の変な設定でも。
©前田建設/Team F©ダイナミック企画・東映アニメーション
「ナラタージュ」などで知られる直木賞作家島本理生のセンセーショナルな原作を「幼な子われらに生まれ」の三島有紀子監督が映画化。何不自由のない生活を送る主婦が、かつて愛した男に10年ぶりに再会したことで「禁断の恋」にのめり込み、本当の自分に目覚めていくまでをエモーショナルに描く恋愛映画。妻として母として生きるか、それとも一人の女性として生きるか。心と身体の激しい葛藤の末、ある決断を下す主人公村主塔子。活発なイメージの夏帆が女優人生を賭け体当たり。大人の女優へと脱皮した。
塔子の眠っていた感情を揺り起こす男性鞍田に妻夫木聡。孤高の男の内に秘めた憂いと優しさを、全身から放たれる色気で熱演。大胆なシーンでは夏帆を力強くエスコートした。
Ⓒ2020「Red」製作委員会